最高裁判所第一小法廷 昭和24年(そ)1号 判決 1949年5月19日
主文
原判決を破棄する。
理由
檢事総長福井盛太非常上告趣意について。
一件記録を職權をもって調べてみると、昭和二二年一一月二九日津地方裁判所四日市支部において言渡した第一審の有罪判決に對し、被告人から適法な控訴の申立をなし、ついでこれに對し名古屋高等檢察廳檢事から附帶控訴の申立がなされた。そして名古屋高等裁判所の控訴審に繋屬中、被告人から昭和二三年一一月一〇日附を以て「訴訟取消書」と題する控訴申立の取下書と認むべきものを同裁判所に提出し、該書面は翌一一日同裁判所に到達した。從って、本件控訴事件は、主たる控訴申立の取下によっ同裁判所は最早審判することができなくなったかにかかわらず、同裁判所書記課においては、誤って該書面を被告人に送還したため、同裁判所は前記控訴取下の事実を知るに由なく、同月一二日所論の有罪判決を言渡し、該判決は同月一八日確定するに至った事情を認めることができる。
かように、名古屋高等裁判所が主たる控訴取下が効力を発生し最早審判すべからざるに至ったにかかわらず、その翌日有罪の判決を言渡したことは、明らかに違法である。論旨は、だから理由があり、原判決は破棄さるべきである。
よって舊刑訴第五二〇條第一號に則り主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)